西の魔女が死んだ
タイトルが既にこんな感じなので、“死んだ”ことに関して隠す必要はないですよね。その他は極力ネタばれなしで感想をば。
この作品は児童文学です。おそらく小学校高学年〜中学校低学年向けでしょう。
ですが、“児童文学=作品として劣っている”というわけではありません。平易な文章で書かれていても、読者が受け取るメッセージまで浅いとは限りません。
「西の魔女が死んだ」は、読者・書店員・編集者が選んだ新潮文庫において、読者アンケート第1位に選ばれました。もちろん、児童向け部門などという狭い範囲から選ばれたわけではなく、あくまでも“新潮文庫”からです。その効力か、よく本屋で平積みされているのを見かけるし、ネットでの評判も良かったので買ってみました。…実際に買ったのは2ヶ月ほど前ですが(笑)、大量に積んだ未読本から引っ張り出してきました。
帯にはこう書かれていました。
『最後の3ページ、涙があふれて止まりません』
…本当に涙腺が緩みました。でもそれは、悲しくてではありません。なぜなら、この作品中では“死”というものが辛いだけの出来事であるとは捉えられていないからです。
また、そこに至るまでの構成が非常に上手いです。
まず最初に、死んだという事実をもってきて回想シーンが始まるので、一言一言に重みが増しています。そして、派手な展開は無いけれど、自然や繊細な人の心の描写の巧さによって、小説の中の世界にグイグイと引き込まれ、温かなラストを迎えます。
欲を言えば、物語自体にもっと深みがあれば良かったと思います。でも、これだけ淡々としているにも関わらず、読み手を惹きつける魅力を失わない作者の力量は素晴らしいです。
この話を現実的に読み取れば、、本当は凄く寂しかったのでしょうね。だからこそ、残された者への優しさが引き立っているのだと思います。最後までステキな“魔女”でした。(ただ、、喘息の子供のそばでタバコを吸う描写は、同じ喘息持ちの人間として興醒めしました。あれは完全な蛇足だったんじゃないかな…)
世の中には、この主人公と同じような悩みを持つ子供はたくさんいると思います。…いや、子供に限ったことではないですね、これは。
不登校に悩む子供や保護者、教育関係者へ…。この本との出会いは、心の支えと未来への希望に繋がるかもしれません。
−サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか−(文中より)
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